リンはうつぶせで、頭の下で腕を組んでる。 服の上からでもわかる肩の線、しなやかでつよい腕の線。 下になった頬が少しつぶれて。
「久しぶりだよね、二人並んでなんて。」
普段はもっと上で束ねている髪が、流れるように首の後ろから背中を通って。 そうしていると、まるで別の人みたい。
「あの時のこと覚えてる?秋の祭りの後、外に毛布を持ち出してさ。」
風邪だというのに、少しはしゃいだような口調。 こんな無防備なリンを知っているのは、私だけ 自分とは違う人間の匂いが、ふぅ、と胸に吸い込まれて。
「星座を教えてもらいました。サカの星とサカのお話でしたね。」
そして、吸い込んだ匂いが、そのままトクン、と心臓を強く動かした。
けれど、リンの表情は少し曇る。 ぷい、とそっぽを向く。
「リ、リンディスさま…。私…間違えました?」
間違えてなんかいない。 あれからリンは、私に何度も話をねだった。 遠いイリアの、聞いたことのない星の物語も、他の物語も。 そして二人で語り明かしたのだもの。
そっぽを向いた理由は知っている。 次の口調も知っている。
「ううん、そうじゃないの。やっぱり早く寝た方がいいから、ね。」
公女になってからたまに聞く、少し固い口調。 そう言うと仰向けになって。 もう、お話は終わり。
「はい。では明かりを消しますね。」
そう言うと布団を出た。 立ち上がると、寒気が背中を這い上がる。 ランプを持ち上げると、少し後ろを確認してから吹き消して。 辺りは二人だけの闇になる。
「お休み、フロリーナ。」 「お休みなさいませ。リンディスさま。」
言い出したのは、ヘクトル様だったような。 リンと私が一緒に風邪を引いて。 ちょうどいいからと、周りにうつさないように一緒の天幕に入れられて。 本来親友だからちょうどいい。 その程度の考えだったと思う。
それが嬉しくなかったと言えば嘘になる。 僅かばかりでも、甘い期待を抱かなかったといえば嘘になる。 リンも、きっと同じだと分かっている。
でも、すでに私は知ってしまった。 サカを出て、一緒に戦って、リンの血筋を知って。
それはきっかけに過ぎないけれど。
いつまでもこのままではいられない。 きっとそれは許されない。 きっと変わらざるを得ないのだと。 でも…。
だからって、離れられるわけがない。
それゆえに選んだ。 あなたの臣下になっても、傍にさえいられれば。 いいえ。 傍にいるために。
ふと気が付くと、いつの間にかリンの寝息が聞こえてきて。 でも、肩は出したまま。 そっと布団をかけなおすと。 自分も布団にもぐりこんで、そっと静かに腕を這わす。
やがてリンの指先が触れる。 恐る恐る、私の指が手を辿る。 サカにいたころより薄くなった手のひらも。 あまり変わらない剣ダコも。
そう、やっぱりリンなんだ。
「ごめんね…」
なんで、ごめんねなんて、呟いたのだろう? 胸を締め付ける思いはあるけれど。 指から暖かさが伝わってくるようで。 体が癒されてくるようで。
明日になったら元気になれるかな。 お休み、リン。
やがて時が経ち、身じろぎひとつせず、黒髪の少女が目を開ける。 まだそこにあった手を、それは大事に握り返す。 それは誰も見ていない彼女の秘密。 彼女の心。
そして、本当の眠りに落ちる。
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内容を見れば想像がつくかもしれませんが、りんふろぎゃらりぃのno.9 病的リンフロにインスピレーションを得て書いたものです。
それに、支援レベルはAに達していないリンフロです。 その後どうなるかは・・・て、サイトの趣旨からすればくっつくしかないですが(笑)
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